アメジスト 第一話
広くて、優しそうな手に拾われた。
温かいあなたの手。
私はブレスレットに連なる一粒の石。
強制的にライトを当てられ、ただ存在して、光を反射させるだけ。
一か所に集められて…ただ主を待っていた。
あなたに拾われるまでは。
私は優しく拾い上げられ、
小さな紙袋の中におさめられた。
ぐるんとした重力を感じた後、何かに入れられた浮遊感。
そのまま数十分の間の暗闇。
初めて暗闇に恐怖を感じた。
ゆらゆらと紙袋の中で揺れる体。
時折ほかの石とぶつかりカチンと音がした。
そして突然揺れが収まり、あたりが明るくなった。
そこは部屋。
生活感のある、どこにでもあるマンションの1室だった。
私は小さな紙袋の中から取り出され、
薄暗い部屋の窓辺にある細かい水晶が敷き詰められたの中にそっと寝かされた。
…とても心地よかった。
今まで強制的に浴びせられてきた光とは違う、月の光に照らされた水晶の中で、
体に光を纏わせた。
生まれて初めての深呼吸を終えた後。
ふと目をやるとそこは寝室。
シングルベッドの向かい側にはクローゼット。
その前に立って着替えている優しい手の持ち主。
…ほほが緩んだ。
月光に照らされた自らの体に光を宿させ、
また大きく息を吐いた。
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